巻子本古今集(仮名序)の唐紙

益田朗詠(東博本)の唐紙 - ときかぬ記につづいて、今回は巻子本古今集の仮名序巻の唐紙。全33紙すべて舶載唐紙です。

まず、『料紙と書』*1p182の「古今和歌集序(巻子本)(大倉集古館蔵)料紙装飾一覧」(以下「一覧」)を転載します。なお、

1、「刷り方」欄において、雲母刷り→雲、黄雲母刷り→黄雲、空刷り→空、のように略記して示した。
2、「具引き色」欄において、「*白」と示したのは、純白でない少し黄みがかった色を示す。

紙継 型文様 刷り方 具引色 布目
1 花襷 黄雲 *白
2 牡丹・蓮唐草 濃朱  
3 鶴・朽葉 淡朱
4 獅子二重丸唐草 *白
5 飛獅子唐草
6 宝相華唐草  
7 小宝相華唐草 黄雲
8 花襷 *白
9 鶴・蓮唐草  
10 獅子二重丸唐草 *白
11 牡丹・蓮唐草 淡朱  
12 小宝相華唐草 黄雲
13 飛獅子唐草
14 波・人物群像  
15 鶴・朽葉 淡朱
16 獅子二重丸唐草 *白
17 獅子二重丸唐草 *白
18 殿舎・人物群像 濃朱  
19 合生唐草 黄雲
20 鶴・朽葉 淡朱
21 鶴・蓮唐草  
22 飛獅子唐草
23 牡丹・蓮唐草 淡朱  
24 獅子二重丸唐草 *白
25 孔雀・宝相華唐草  
26 合生唐草 黄雲
27 飛獅子唐草
28 獅子二重丸唐草 黄雲 *白
29 鶴・朽葉 淡朱
30 波・人物群像  
31 花襷 黄雲
32 亀甲
33 鶴・朽葉

つづいて、四辻秀紀さんの「平安時代の調度手本にみられる唐紙・蠟牋についての一考察」(以下「一考察」)*2の解説(p234-235)。

巻子本古今和歌集 伝源俊頼筆 大蔵文化財団ほか諸家分蔵
 もとは「仮名序」を添えた『古今和歌集』全巻が書写されていたと考えられ、現在は「仮名序」の首尾を完存している一巻(大蔵文化財団蔵)および巻第十三の零巻一巻(個人蔵)が、巻子装のままのかたちで伝存し、他は断簡として諸家に分蔵されている。
(略)
 この「巻子本古今和歌集」の「仮名序」には左記の文様の唐紙・蠟牋が用いられている。
 1 獅子二重丸二重蔓唐草文(図版25)
 2 飛獅子唐草文(図版26)
 3 雁蓮華唐草文(蠟牋)(図版27)
 4 富貴長命文字入蓮華・牡丹唐草文(蠟牋)(図版28)
 5 宝相華唐草文
 6 合生唐草文
 7 花襷文(図版29)
 8 雲鶴文(図版30)
 9 亀甲繫文
 10 孔雀宝相華唐草文(蠟牋)(図版31)
 11 大宝相華唐草文(蠟牋)(図版32)
 12 殿舎人物群像(蠟牋)(図版33)
 13 波人物群像(蠟牋)(図版34)

「一覧」と「一考察」とは文様の名称に違いがあります。「一考察」の方を軸に比較表を作ります。

一考察 一覧
1 獅子二重丸二重蔓唐草文 獅子二重丸唐草
2 飛獅子唐草文 飛獅子唐草
3 雁蓮華唐草文 鶴・蓮唐草
4 富貴長命文字入蓮華・牡丹唐草文 牡丹・蓮唐草
5 宝相華唐草文 小宝相華唐草
6 合生唐草文 合生唐草
7 花襷文 花襷
8 雲鶴文 鶴・朽葉
9 亀甲繫文 亀甲
10 孔雀宝相華唐草文 孔雀・宝相華唐草
11 大宝相華唐草文 宝相華唐草
12 殿舎人物群像 殿舎・人物群像
13 波人物群像 波・人物群像

細かい違いを無視すると、問題となるのは次の6文様の名称。

一考察 一覧
1 獅子二重丸二重蔓唐草文 獅子二重丸唐草
3 雁蓮華唐草文 鶴・蓮唐草
4 富貴長命文字入蓮華・牡丹唐草文 牡丹・蓮唐草
5 宝相華唐草文 小宝相華唐草
8 雲鶴文 鶴・朽葉
11 大宝相華唐草文 宝相華唐草

1は益田朗詠にあわせ、3の鳥は雁に見え、4も図版を確認する限り少なくとも「富貴命」の3字は確認できるので、いずれも「一考察」に従います。5と11の組も「一考察」のを採用します。

太田彩さんは「「粘葉本和漢朗詠集」と「金沢本万葉集」にみる料紙の装飾と文様」(『料紙と書』所収)において、いくつかの唐紙文様の名称を従来のものから変更しています。この巻子本古今集に関わるものは以下の3つ。

  • 雲鶴文→飛鶴宝相華文
  • 合生唐草文→瑞果花唐草文
  • 亀甲繫文→亀亀甲繫文

雲鶴文→飛鶴宝相華文については

この文様は"雲鶴文"とされてきたもの。しかし、雲とされてきた意匠は、宝相華の葉(花枝)が飛遊するようにデザインされているものとみられ、飛鶴の中にこれを銜える鶴がいる。

合生唐草文→瑞果花唐草文については

これまで"合生唐草文"とされてきたもの。しかし、詳細にみると、蓮実、石榴、仏手柑、茘子、瓜、桃(カ)の六種類の瑞果(吉祥果)が左右に二つ、その上にそれぞれの花を配置する文様であるため、この名称とした。

亀甲繫文→亀亀甲繫文については、従来の「亀甲繫文」という名称を否定する文言はありませんが「亀を亀甲の中に表して連続させた文様」なので、文様の形容としてより相応しいと思います。

これら3点は太田さんの名称を採用します。また、殿舎人物群像と波人物群像も文様なのだから「文」をつけて他と揃えます。以上まとめて、

紙数 型文様 刷り方 具引色 布目
1 花襷文 黄雲 *白
2 富貴長命文字入蓮華・牡丹唐草文 濃朱  
3 飛鶴宝相華文 淡朱
4 獅子二重丸二重蔓唐草文 *白
5 飛獅子唐草文
6 大宝相華唐草文  
7 宝相華唐草文 黄雲
8 花襷文 *白
9 雁蓮華唐草文  
10 獅子二重丸二重蔓唐草文 *白
11 富貴長命文字入蓮華・牡丹唐草文 淡朱  
12 宝相華唐草文 黄雲
13 飛獅子唐草文
14 波人物群像文  
15 飛鶴宝相華文 淡朱
16 獅子二重丸二重蔓唐草文 *白
17 獅子二重丸二重蔓唐草文 *白
18 殿舎人物群像文 濃朱  
19 瑞果花唐草文 黄雲
20 飛鶴宝相華文 淡朱
21 雁蓮華唐草文  
22 飛獅子唐草文
23 富貴長命文字入蓮華・牡丹唐草文 淡朱  
24 獅子二重丸二重蔓唐草文 *白
25 孔雀宝相華唐草文  
26 瑞果花唐草文 黄雲
27 飛獅子唐草文
28 獅子二重丸二重蔓唐草文 黄雲 *白
29 飛鶴宝相華文 淡朱
30 波人物群像文  
31 花襷文 黄雲
32 亀亀甲文
33 飛鶴宝相華文

なお、巻子本古今集は仮名序以外にも遺っており、なかには仮名序巻には使われていない文様の唐紙もありますが、それについてはまた別の機会に。

*1:思文閣、2014年

*2:金鯱叢書』24輯(徳川黎明会、1998年)所収