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奈良旅行中に見た写経について

今回の奈良旅行で拝見した写経についてです。大和文華館と帰りによったあべのハルカス美術館で拝見した分については既に触れたので省略します。

東大寺の歴史と美術」展@東大寺ミュージアム

紺紙銀字華厳経(二月堂焼経)

1巻|紺紙銀字|奈良時代・8世紀
華厳経(60巻本)。『出典判明仏書・経切一覧稿』p54によると「巻58零巻&数巻混交67紙分」とのこと。展示はこの残巻の巻頭であり巻59の巻頭でした。

華厳経60巻本は巻立にバラつきがあり、巻59の巻頭とは言っても大正蔵本とは一致せず、T0278_.09.0776c27からです。大正蔵の注によれば聖語蔵本(「神護景雲二年御願経」)も同じくここから巻59で、同様に訳号欠。二月堂焼経の方では下に「五十九」などと巻次が書かれていた可能性がありますが、焼損のため確認できません。なお首題は「入法界品巻之十五」と「巻」の衍あり。

金光明最勝王経(眉間寺旧蔵)

1巻|紙本墨書|平安時代・9世紀
眉間寺(廃寺)に伝来した素紙墨書の金光明最勝王経全10巻。展示は巻1巻頭でした。展示目録やキャプションでは時代を「平安時代(9世紀)」としますが、キャプションの解説中では「平安後期の写本」と矛盾する記述。筆跡を見る限りでは12世紀以後という感じがしました。

法隆寺大宝蔵院

大般若経巻293

重文|1巻|奈良時代・8世紀
行信願経。補修されていますが、かなり虫損がひどいものでした。願文の「神護景雲元」には抹消痕が見当たらず。

普超三昧経巻中

重文|1巻|平安時代・永久3年(1115)
法隆寺一切経のうち。勝賢の勧進による第2期のもので、静因が乳母大原三子の追善のために書写したうちの1巻。

法隆寺結縁一切経之内五巻僧静因請中普超三昧経巻中下
両巻中阿含経第十一十三十四也此巻是為乳母大原三子
滅罪生善往生浄土致誠心奉書写之耳
 永久三年乙未九月廿日依僧勝賢勧進書之

名品展 「珠玉の仏教美術」@奈良博

紫紙金字金光明最勝王経(国分寺経)

国宝|1巻|奈良時代・8世紀
国宝|金光明最勝王経 巻第一~十(国分寺経)|奈良国立博物館
紫紙金字金光明最勝王経 - e国宝
展示は巻2の巻頭で、表紙をうまい具合に丸め外題(金字打付け書き)を見せる展示でした。

諸菩薩求仏本業経(五月一日経)

1巻|淡海金弓筆|奈良時代・8世紀
諸菩薩求仏本業経(五月一日経)|奈良国立博物館
軸付け紙の墨書「用紙十三張 文一 金弓」と正倉院文書に残る充本帳・充紙帳(大日本古文書8巻112頁)、手実(同81頁)、布施申請解の控え?草稿?(同156頁)によって淡海金弓筆と確定でき、またその書写時期も判明する1巻。なお充本帳・充紙帳と手実にみえる大樹緊那羅王所問経4巻が聖語蔵に伝存します。もちろん同じく金弓筆。

増一阿含経巻39(善光朱印経)

1巻|中臣村屋連鷹取筆|奈良時代天平宝字3年(759)
増一阿含経 巻第三十九(善光朱印経)|奈良国立博物館
善光朱印経については詳細を知りません。キャプションにも詳しいことは書かれず。「善光」の朱印が押されていること、天平勝宝7歳から天平宝字2年の年記が見られること、筆者および初校から3校などを記す奥跋、『日本古写経現存目録』によると現存は中阿含経数巻、増一阿含経数巻、僧伽吒経、大威徳陀羅尼、首楞厳経1巻づつ、『日本写経綜鍳』p135によれば「元興寺の経であつた」「善光印のあるものを総合してゆくと願文はないが一切経であることが明らか」とのこと。金剛峯寺に同じく天平宝字3年中臣村屋連鷹取書写奥書のある巻32(重文)が所蔵されています。また遊行寺に巻36(藤沢市指定重文)があります。筆者分かりませんが、間に挟まれた巻なのでこれも中臣村屋連鷹取筆かも。奈良時代古文書フルテキストデータベースで検索する限りでは天平宝字6年から宝亀2年の写経所での活動が確認できそうです(詳しくは読んでいません)。

法華経巻7

1巻|平安時代・12世紀
紺紙金字。見返しは釈迦説法図で、手前に2人の人物に追われる常不軽菩薩が描かれています。「描写は生彩に富む」とはキャプションの言い。同感です。

法華経長谷寺経)

国宝|1巻|鎌倉時代・13世紀|奈良・長谷寺
展示は提婆品で、見返しと巻頭部分。見返しは銀の切箔(中くらいの大きさの正方形)を一面に撒いたもの。天地には金銀の小切箔砂子撒き。金界墨書。

大般涅槃経中尊寺経)

国宝|1巻|平安時代(12世紀)|和歌山・金剛峯寺
展示は巻12聖行品中、見返しと巻頭部分。見返し絵は、右上方は山、左中央に釈迦説法図、左下から右中央が川と船に乗る僧、右下の陸地には蛇に対する僧が描かれています。蛇は妙花莖の毒蛇云々の話で、船は巻末の「是の諸の外道生死の無辺の大河に漂没して、而も復無上の船師を遠離す」あたりを表しているのでしょうか。

写経手鑑 紫の水

1帖
写経手鑑「紫の水」|奈良国立博物館
展示は以下の箇所。それぞれの断簡に出典などと時代を記した簡単なキャプションが添えられていました。それを写すと、

  1. 絵因果経 奈良時代
  2. 賢愚経(大聖武) 奈良時代
  3. 随求即得大自在陀羅尼神呪経(中聖武) 奈良時代
  4. 大般若経長屋王願経) 奈良時代
  5. 装飾下絵法華経 平安時代
  6. 毘尼母経(光明皇后発願経、五月一日経) 奈良時代
  7. 紫紙金字華厳経 奈良時代
  8. 紫紙金字法華経 奈良時代
  9. 紺紙銀字華厳経(二月堂焼経) 奈良時代
  10. 浄野人足解(正倉院文書) 宝亀五年(七七四)
  11. 白麻紙首楞厳経 奈良時代
  12. 大般若経東大寺印経) 奈良時代

1.絵因果経は益田家本。4.大般若経長屋王願経)は手鑑に貼られた極札では和銅経認定ですが、奈良博の展示キャプションでは「和銅経」の表記を外しています。和銅経でいいと思いますが如何。10.浄野人足解(正倉院文書)は「経所勘印」2顆が押されています。正倉院文書の庫外流出文書のうち写経生の手実については、天保開封のときに柳沢庄次郎がちょろまかしたものが多いようなので、これもその1葉でしょうか。大日本古文書6巻575頁掲載で、「神田香巌所蔵文書」とあります。ということはこの手鑑は神田香巌の調製? もしくはそれ以後の所蔵者によるものか。8.紫紙金字法華経奈良時代としていました。よく見かける紫紙金字法華経平安時代のものですが(たとえば奈良博の法華経巻2・3などなど)、奈良時代書写と推定されるものもあり(御物(三の丸尚蔵館現蔵?)の巻2)、紫紙金字法華経は要整理だなと思っております。

手鑑

1帖
展示箇所で経切は2葉。賢愚経巻7大劫賓寧品28(T0202_.04.0398c06-10)。および光明皇后と極められた長阿含経巻3(T0001_.01.0021a10-18)。ほかにも歌切、消息切、短冊などが展示されていましたが、極札だけのヒントだと分からないものだらけで、勉強不足を痛感。

特別陳列「お水取り」@奈良博

華厳経(二月堂焼経)

1巻|奈良時代・8世紀|奈良博蔵
華厳経(二月堂焼経)|奈良国立博物館
「当館が所蔵するのは、巻第五が5紙、巻第六が2紙、巻第二十一が9紙、巻第二十三が1紙のあわせて17紙。現在はこれを2巻(甲・乙)に仕立てている」。展示は巻5の5紙(T0278_.09.0422b17-0424a27, 0424c05-425a05)で、これで1巻だったと思います。

特別陳列「伊豆山神社の歴史と美術」@奈良博

15 紺紙金字般若経

重文|後奈良天皇筆|室町時代・16世紀
見返しは金泥で散華を描き詰めたもの。巻末に「伊豆国」。『日本写経綜鍳』p584-587。『綜鍳』に記載された醍醐三宝院所蔵の奥書は

今茲天下大疫万民多阽於死亡朕為
民父母徳不能覆甚自痛焉竊写般若
心経一巻於金字使義尭僧正供養之
庶幾虖為疾病之妙薬矣
 于時天文九年六月十七日

また

天文八年は気候不順にして天下凶作を告げて諸国飢饉剰へ悪疫流行の惨状を極めた年であつて。後奈良天皇深く之を歎かせられ、三月廿五日には大神宮に祈禱せしめられ四月には改元の内旨仰出され六月十四日に禁中御修法の為幕府より三千疋を献上した。これにより六月十七日よりこの心経*1は即ちその時のもので嵯峨天皇以来の御慣例に従ひ、般若心経を書写し給ふたのである。尚天皇はこの後に諸国所縁の地へ公卿などの下向に託してお納めになり民の福祉を祈られた。肥後、周防、三河、甲斐、伊豆国(観音堂)越後国(上杉伯家)などのものが現存してゐる。

『日本古写経現存目録』p342-343では現存所蔵「参河(岩瀬文庫)甲斐(浅間神社)伊豆(伊豆山神社)安房(曼殊院)越後(上杉家)周防(国分寺)肥後(西厳殿寺)」を挙げ、また「心経御目録心経国々被遣内使者」というのを記します。

河内伝誉伊勢惟房尾張二条淮*2参河三条公頼遠江東城坊長淳駿河中御門宣治陸奥勧修寺尹豊越前四辻秀遠加賀白山長吏但馬右府備前尹豊出雲二条淮后周防烏丸光康豊前資将肥前光康肥後日向季遠近江尚顕以上天文十四年二月廿一日迄以上八*3箇国
信濃三条大御書越後勧大尚顕入道甲斐聖護院道増伊豆上野三条西公条称名院下野勧大安房国醍醐寺源雅

20 細字法華経

展示目録やキャプションには寸法記載されず、図録の確認も忘れましたが、小さな写経でおそらく縦10cm足らずだと思います。1行34字の細字経で法華経全8巻を1巻にまとめて写したもの。1行34字ですが、2段に分けて上下段の間に罫線を引いているため、読む順序がわかりにくい。まあ読み返すことはないものでしょうけれども。

*1:上記醍醐三宝院所蔵本を指します

*2:ママ

*3:ママ。十八か