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「写経―欣求と耽美―」展@センチュリーミュージアム

センチュリーミュージアムの館蔵写経展に行ってまいりました。センチュリーミュージアムの写経コレクションいいですね。サイトの収蔵品データベースで以前から見ていましたが、今回初めて実物を拝見して良さを再認識しました。すばらしい。

1 賢愚経断簡(大聖武

1幅|伝聖武天皇筆|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=138
5行。賢愚経巻16快目王眼施品67(大正04.0391b07-11)。

2 紫紙金字法華経断簡

1幅|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1169
4行。法華経巻5・提婆達多品(大正09.0034c12-18)。美術館などで展示される紫紙金字法華経は奈良中期のものと平安初期のもの2種類ありますが、これはもと一具であったもので、奈良中期書写か平安初期書写かで見解が別れているということでしょう。奈良博や東博などは平安初期、五島美やこのセンチュリーミュージアムなどは奈良中期という考え。本断簡のあと1紙ほど置いて先ごろご紹介したハーバード・アート・ミュージアムの断簡が続きます。本断簡は大正蔵本と比べていくつか本文に違いがあります。

3 菩薩念仏三昧経巻4(光明皇后発願一切経・五月一日経)

1巻|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1124
展示は巻末。奈良中期を代表する写経である五月一日経とはいえ、計7千巻にもおよぶ写経で数多くの経師が関わっているわけで、出来に多少の差はあります。今までそれほど数多く見たことがあるわけではありませんが、私が見たなかでは抜群でした。今回一番のお気に入り。
追跋

天平勝宝七歳十月十七日正八位下守少内林連広野正
大安寺沙門行脩読
   沙門敬明 沙門玄蔵 沙門琳躰 沙門璟忍証

4 註楞伽経断簡

1幅|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=79
25行。註楞伽経巻6(註楞伽経は大正蔵になし。楞伽経でいうと該当箇所は16.0508c06-16)。解説には「「光明皇后発願一切経」(五月一日経)の一部であったと推定される」とありますが不審。伝魚養筆本でしょう。ツレは同巻の断簡だと例えば手鑑「月台」所収断簡国会図書館蔵巻6残巻(なおタイトルの「卷7」は誤謬)などなど、また京博の巻1知恩院の巻5、去年秋に展示された根津美の巻7が残ります。

5 紺紙銀字華厳経断簡(二月堂焼経)

1幅|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1595
30行。華厳経(60巻本)巻43(大正09.0670a10-c10)

6 阿毘達磨順正理論巻27(称徳天皇勅願一切経

1巻|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1126
展示は巻頭(巻頭欠)。この写経は尾題に「説一切有部順正理論巻第廿七」と書いてありその後に景雲経の願文が続くので「阿毘達磨順正理論巻第二七(称徳天皇勅願一切経) 」という作品名がついていますが、調べてみるとこの写経は阿毘達磨順正理論巻65の(サイトの写真で見る限り少なくとも)巻頭末欠のようです。すなわち、首尾題を欠いた写経に別の尾題と願文の書かれた断簡を継いだもの。とすれば、この写経が本当に景雲経であるかは別に検討を要するでしょう。

7 大般若経巻50断簡

1幅|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=843
33行。巻50巻頭。浄土寺大般若経。奈良・長弓寺に僚巻の巻131が現存し、奥書に「尼静安仕奉願」。田中塊堂さんの『日本写経綜鍳』*1p191に曰く「浄土寺は清和帝の元慶四年八月廿三日水尾山より嵯峨に遷御云々とあるその寺と思はれる」。

8 大般若経巻221(薬師寺経・魚養経)

1巻|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=704
展示は巻頭。これもよかったですね。お気に入りのふたつ目。後期写経としては割に整然とした感じを受けます。もうちょっと迫力あってもいいようにも思いつつ、これはこれですばらしい。「軸は胡粉を塗抹した撥型軸」とあってあれ白密陀じゃなかったっけ? と思いましたが、成瀬正和さんの「正倉院宝物に用いられた無機顔料」*2のp17によるとこういうのも「奈良時代には広義には「胡粉」と呼ばれた」そうです。だいたい剝げてましたけれども。巻221は原表紙でもいい巻次ではありますが、解説で外題部の「薬師寺印」朱円印に触れていないことも合せて原表紙ではないように見えました。

9 大般若経巻286断簡(永恩具経)

1幅|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=2133
13行(尾題含む)。巻末断簡で朱筆「句切了 永恩」が見れます。

10 大般若経巻438断簡(行信発願経)

1幅|奈良時代
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=512
29行。大般若経巻438(大正07.0206a08- b08)。

11 大般若経巻556断簡

1幅|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1817
24行。大般若経巻556(大正0868c06- 0869a01)。

12 紺紙金字大般若経断簡(荒川経)

1幅|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1558
29行。大般若経巻481(大正0442b07-c06)。

13 装飾法華経断簡

1幅・平安時代12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1071
29行。法華経・安楽行品(大正09.0038c04-0039a05)。小林強さんの『出典判明仏書・経切一覧稿』*3p103にある「法華経③」の「『思文閣墨跡資料目録』230号―132〈安楽行品・大正蔵9巻38頁下段~39頁上段〉」に該当するものかも。天地の余白が狭いのは切ってるから?

14 装飾法華経断簡

1幅|伝九条兼実筆|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1382
5行。法華経・法師功徳品(大正09.0048a03-8)。写経手鑑「紫の水」所収断簡に前接する断簡。『仏書・経切一覧稿』p21では「兼実(九条)―法華経②」の「個人蔵(略)」に該当するもの(またはその一部)。なおこの項には巻1の序品、巻5の従地踊出品、巻6の随喜功徳品と法師功徳品の断簡が挙げられています。図版を確認していないのではっきりしたことは分かりませんが、一品経ではなく一巻経で各巻の装飾が共通(かつ同筆?)なのかもしれません。

15 紺紙金字一字宝塔法華経断簡(心西願経)

1幅|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1441
8行。法華経巻7・囑累品(大正09.0052c10-17)。写経手鑑「紫の水」断簡に後接。

16 一字宝塔法華経(戸隠切)

1幅|藤原定信筆|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1081
5行。法華経巻4・宝塔品(大正09.0032c09-11)。5行あけて写経手鑑「紫の水」断簡に続きます。藤原定信の真筆であるかは見解が別れています。センチュリーや東博は定信としていますが、五島美や書芸文化院は懐疑的。

17 鼠心経

1幅|伝空海筆|鎌倉時代・13-14世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1343
般若心経。解説では触れられていませんが、ぼんやりと文字が裏写りしているのがリンク先の写真でも確認できます。実物を見てもはっきりしたことは分からず、強いて言えば行が整然としているところ経典(版経?)のように見えなくもありません。ただ、もちろん経典の裏に経典というのも変な感じがするので、違うものでしょうか。

18 法華経断簡(笠置切)

1幅|万里小路宣房筆|鎌倉時代・14世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1444
3行。法華経巻3・授記品(大正0020c21-25)。笠置切はわりと好きな写経で、この断簡は初めて見ましたがやはりいいなと思います。

19 銅製経筒 久安6年銘

1口|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=10

21 紺紙金銀字交書広弘明集巻12(中尊寺経)

1巻|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=202
展示は巻頭。表紙は後補で見返し絵は失われています。金字の状態はよく輝いていますが、展示の巻頭部分の銀字はかなり褪色しています。リンク先の写真は中ほどで、銀字の状態はよさそうです。展示箇所に1箇所金字行が連続するところがありました。軸端の毛彫り文様は側面には施されてません、当初のものではないかも。

22 紺紙金字成唯識論巻6

1巻|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=844
展示は巻頭。銀泥で描かれた見返し絵がなかなか良いものでした。リンク先の解説では「銀泥で経意絵(この場合、巻第六の内容を絵解きしたもの)が描かれており」とありますが、会場で渡された作品解説では()内を「経典の内容を絵画化したもの」と変更しています。原見返しではない可能性を考慮しての変更でしょうか。

23 紺紙金字法華経巻2

1巻|南北朝時代・14世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=327
展示は巻頭。

24 大般若経巻219(長屋王願経)

1帖|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=66
展示は巻頭。無跋(リンク先の作品写真2を見ると、巻末30行ほどを願文とともに失っているようです)ながら神亀経と考えられているもの。

25 阿毘達磨蔵顕宗論巻4(法隆寺一切経

1巻|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=64
展示は巻頭に近い部分、紙背継目の「法隆寺一切経」印を見せています。界線の引き方に雑なところがありましたが、字はかっこよかったです。今回のお気に入りのひとつ。

26 称讃浄土仏摂受経

1巻|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1194
展示は巻頭。これは他と紙質が異なる感じがしました。素材の違いか、加工の違いか、それとも状態か(それほど修理の手は入っていない様子)。平安初期と推定される写経で似たようなものを見たような気がしないでもないです。

27 紺紙金字顕無辺仏土功徳経(良弁発願経)

1巻|奈良時代・8世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=1128
展示は全開。東大寺開山良弁の発願経。これは画像で見たときはあまりピンとこなかったのですが、実物を拝見すると力強く迫力ある写経で非常に魅力的でした。お気に入りのひとつ。

28 紺紙金字仏説頼吒和羅経(神護寺経)

1巻|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=3
展示は巻頭。こちらは軸端側面にも毛彫があります。

29 紺紙金字千手千眼観世音菩薩大身呪本(神護寺経)

1巻|平安時代・12世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=895
上に同じ。

35 古写経手鑑 中村雅真調製

1帖|奈良~鎌倉時代・8-14世紀
http://www.ccf.or.jp/jp/04collection/item_view.cfm?P_no=152
展示は2面3葉、装飾成唯識論巻5断簡装飾観普賢経断簡(愛知切)無量義経断簡。この手鑑の展示は期待していたのですが、わずかこれだけしか開かれず残念。

*1:思文閣、1974年。『古写経綜鑒』(鵤故郷舎出版部、1942年)の改題増訂版『日本写経綜鑒』(三明社、1953年)の複刻版。

*2:正倉院紀要』第26号、2004年所収、PDF

*3:大東文化大学人文科学研究所、2010年、NDLサーチ