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元永本にも猿はいます

来年は申年ということで、東博では1月2日から「東京国立博物館 - 展示 日本美術(本館) 博物館に初もうで 猿の楽園」という企画展示をするそうです(本館 特別1室・特別2室)。東博所蔵品また寄託品のなかから猿を表現したものを集めたもので、展示リストを見てみると、出品されるのは絵画・工芸・彫刻・写真の作品ですね。

また別に「東京国立博物館 - 展示 日本美術(本館) 新春特別公開」として1月17日まで名品が公開されます。たとえば等伯の松林図屏風、北斎の冨嶽三十六景から凱風快晴・山下白雨・神奈川沖浪裏、大雅の楼閣山水図屏風など。その中に、元永本古今集も含まれています。

ということはつまり、新春特別展示のひとつとして元永本が展示されるのであって、申年であるからというのは関係ないのですが、実は元永本にも何種類か猿がいるんですよね。

ひとつはもちろん巻19・1067番歌。古今和歌集(元永本) 下巻 - e国宝の184コマ。

  法皇西河におはしましけるに
  猿山かゐにさけふといふ題を
            躬恒
わひしらにましはなゝきそ足引の山の
かゐある今日にはあらすや

第2句「ましは」は誤写でしょう。

つづいて、百人一首の猿丸太夫の歌も載ってますね。巻5・215番歌。古今和歌集(元永本) 上巻 - e国宝の87コマ。ただし、古今集では読人しらず。

  題不知  よみひとしらす
おく山に紅葉ふみわけなくしか
のこゑきく時そ秋はかなしき

ちなみに真名序にも猿丸太夫は顔を見せますが、元永本には真名序がありません。

さらに呼子鳥は猿だという説というか伝承もありますがそれはさて措きましょう。

もうひとつ、元永本には助動詞「まし」を「猿子」と表記したものが散見されます。たとえば巻15・749番歌。古今和歌集(元永本) 下巻 - e国宝の65コマ。

 (題しらす)
        藤原兼輔朝臣
よそにのみきか猿子鬼尾おとはか
はわたるとなしにみなれそめけむ

「猿子鬼尾」で「ましものを」と読みます。また同・791番歌。同74から75コマ。

 ものおもひ侍りけるころものへ
 まかり侍りけれは道に火の
 もえけるをみて
      いせ
冬かれのゝへとわか身をおもひせ
はもえてもはるを待猿子鬼尾

巻17・895番歌。同109コマ。

老らくの来と知せは門鎖て
無と答て逢さら猿子尾
   此歌は昔ありける三人翁の
   よみたるとも云伝たる

同・925番歌。同118コマ。

 題しらす
        神退法師
清瀧の瀬々のしら糸くりため
て山わけ衣織て着猿子尾

同・927番歌。同119コマ。詞書で1字不明な文字がありますがとりあえず「歌」と読んでおきます。

  朱雀院帝ふるの瀧御覧
  せむとてふつきの七日お
  はしまして在ける時に御
  ともに候人々に歌読させ
  たまうけれはよめる
        橘長盛
主無くてさらせるぬのを織女に
吾心とや今日は借猿子

巻19・1042番歌。同177コマ。

        ふかやふ
おもひけん人をそ
  共に思は猿子
 まさしやむくい
   なかりけりやは

せっかくの申年ですし、こういうところを展示するとおもしろいんじゃないかと思うのですが、残念ながらこの表記は以上挙げた6ヵ所のみつまり下帖にしかなく、展示は上帖です。古今集で唯一猿を歌った1067番歌も下帖ですし。つい最近まで三井記念美術館に下帖を貸していたので、展示は上帖なんですよね。上帖にある猿丸太夫の歌はそもそも古今集では読人しらずで、しかも季節があわない。呼子鳥だとひねり過ぎでしょうか。

とはいえ、さすがに国宝ですから展示個所を自由に選ぶのは難しいでしょうし、下帖の展示だったとしても上に挙げたページが選ばれるとは限らなかったんですけれども。