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手鑑「たかまつ」所収の業平集断簡

前回書いたとおり、最近は三井記念美術館の所蔵する手鑑「たかまつ」の複製本解説をよんでいるのですが、この186葉の断簡を収める手鑑の中で、特に気になったものの1つが71番目に押された「業平集断簡」です。

71. 業平集断簡

源俊頼筆。平安時代。唐紙墨書。21.4x27.7cm。極札「源俊頼朝臣 あたなりと (「琴山」印)」*1。見開き2面で、右は『業平集』(2番歌)、左は集名「業平朝臣集」。

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参考にしたのは、複製本の別冊解説(1990年、NDLサーチ。この項の執筆は谷知子さん)と古筆学大成17(1991年、NDLサーチ)の2冊。なお、古筆学大成の方が刊行は後ですが執筆は複製本出版前のようで、小松茂美さんは別の本に掲載された図版を見て解説を書いています。いずれもツレの指摘はありません。ともに四半世紀前のもので新しい情報ないかと探しているのですが、古筆切所収情報データベースで俊頼の業平集を検索した限りではヒットするのはこの2冊のみで、お手上げ。ご存知のかた教えて下さい。

まず軽いところから。学大成解説には右面左側の余白について削除痕があると書いてあります。複製本を確認すると、判然とはしませんが1行3字の削除、おそらく「かへし」だろうと思います。いちおう上の図でもうっすらと書いておきました。

次、いまここで気づいたのですが、複製本解説には「唐紙」とあります。複製本を見る時に紙にはそれほど意識が回らなかったものの、唐紙だったかなあとちょっと疑問。次の機会にじっくりと観察してみたいと思います。

また、複製本解説は「右面と左面の間には継ぎ跡があり、本来の見開きではなく、別々の断簡を継ぎ合わせたものと思われる」といいます。この点はじっくり見たんですけれども、継目は見えませんでした。まあ図版で見ているので、継いだ場合には必ず継目が見えるというわけではないのですが、継いでいない(これで1紙の片面である)という可能性は排除出来ないのではないかと思います。はっきり言えるのは、紙の雰囲気はかなり近いことと、中央下から7分の1ほどのところに線対称に虫損があることを合わせて、もともと1冊の本であった(つまりツレである)というのは間違いないと思います。

学大成の解説では、実物もまた複製本の精細な図版も見ていない段階ですが、継いだものではなく1紙の片面と見なしています。さらに進んで、原装は粘葉装で第1紙の第1丁表と第2丁裏にあたる部分であろうと小松さんは仰っています。この見解を裏付けるように複製本の図版では糊代痕らしきものを見ることができます。しかし一方で、綴じ穴も見えるんですよね。これは糊が剥がれたあとに糸で綴じた時のものでしょうか。

やはり注目は、左面の集名が書かれた部分。こういう部分の断簡ってあまり見ないですよね。私が知っているのは、前田育徳会に蔵される『道成集』零本のツレで、「道済集」(定家筆)と集名が書かれた断簡と本文の断簡の合わせて2葉を呼継にした掛幅(個人蔵)くらい。珍しいものだと思います。なお、こちらの「業平朝臣集」の字は定家ではないでしょう。

右面の和歌と左面の集名は別筆です。そして右面の和歌の筆跡に似るものとして挙げているのが、別冊解説と学大成ともに「亀山切」。とすれば、推定書写年代は12世紀前半頃といったところでしょうか。