元永本の新春特別公開での展示箇所

東博の今年の新春特別公開で元永本の上帖が展示されていました。

f:id:ouix:20171014223616j:plain

元永本の上帖は191丁。ここは、その数多い候補の中から厳選された見開きです。ではなぜこの見開きが選ばれたのか、この時は私は分かりませんでした。最近、元永本の料紙について調べていた時に、はたと気づいたんですね、実はここすごく珍しい箇所なのです。気づいた上で写真を見ると、その特徴が歴然。なぜ当時気づかなかったのか。料紙は雲母摺りですが、右頁は黄雲母、左頁は白雲母を用いて摺っている箇所なのです。

以下、島谷弘幸さん編の『料紙と書: 東アジア書道史の世界』の「古今和歌集(元永本)(東京国立博物館蔵)料紙装飾一覧」を参考に書きます。

料紙と書: 東アジア書道史の世界

料紙と書: 東アジア書道史の世界

展示されていたのは上帖の41丁表42丁裏(以下、上41オ42ウなどと表記。墨付きの有無関係なく、遊紙から数えています)。同じように左右の頁で白雲母黄雲母に分かれるのは、上帖に上記のも含めて6箇所、下帖にも6箇所。上帖191丁、下帖196丁、合わせて387丁のうち僅かに12箇所しかありません。すべて列挙してe国宝の該当箇所のリンクを貼ります。上41ウ42オ(獅子二重丸)上45ウ46オ(獅子二重丸)上99ウ100オ(二重複丸唐草)上101ウ102オ(二重複丸唐草)上105ウ106オ(二重複丸唐草)上107ウ108オ(二重複丸唐草)下23ウ24オ(花襷)下27ウ28オ(花襷)下53ウ54オ(獅子蔓丸)下57ウ58オ(獅子蔓丸)下93ウ94オ(花襷)下97ウ98オ(花襷)

これで終えてもいいのですが、なんのことか分からない方もいるかと思いますので簡単に説明しておきます。

元永本の料紙は唐紙です。和製唐紙ですが片面摺りで裏面は箔撒き。文様は15種類、摺り方は雲母摺りと空摺りがあります。空摺りは蠟箋とも呼ばれるものですね。装丁法は列帖装(綴葉装)です。1括(折帖)5紙10丁20頁。20括で1冊としているので、全部で200丁400頁あるはずですが、上下とも墨付きのないところで欠落があり、それぞれ191丁382頁、196丁392頁になっています。料紙の表裏が別種である(片面が摺り文様で片面が箔撒きである)ため、括を作るときに工夫が必要になります。つまり、摺り文様面は摺り文様面と合わせ、箔撒き面は箔撒き面と合わせて重ねないと乱れてしまうんですね。1番下は摺り文様面を上に、次に摺り文様面を下にして重ねと交互に重ねて、1番上は摺り文様面が上になります。そして半分に折って10丁20頁分の1括を作ると、見開きが摺り文様面と箔撒き面で統一されるわけです。さらに言えば、摺り文様は1つの括の中で統一した上で(例外あり)、開いたときに左右の文様が連続するように調節して綴じています(例外あり)。また、雲母摺りと空摺りは文様が反転するので、そちらも括の中では統一しています。簡単にまとめたのが以下の表。括のなかで紙は上から順に数えています。つまり「第1第2紙」は上の2紙、「第3第4第5紙」は下の3紙。折ったときに上の方が内側になり下の方が外側になります。

文様 摺り
A菱唐草 上9、上16、下9、下16 雲母
B小重唐草 上10の第1第2紙、上17、下11、下18 雲母
C二重複丸唐草 上10の第3第4第5紙、上11、上18、下19 雲母
D獅子二重丸 上5、上19、下7、下14 雲母
E七宝 上14、上20、下15、下17 雲母(下17のみ空)
F花襷 上8、上15、下3、下10 雲母
G孔雀唐草 上6、下5、下12 雲母
H花唐草 上13、下1、下20
I芥子唐草 上3、上4、下2
J大波 上7、下8
K重ね唐草 上1、上2
L大花唐草 下4 雲母
M大唐子 上12
N獅子蔓丸 下6 雲母
O亀甲 下13

1つの括の中で文様が統一されていないのは上帖の第10括で、左右で文様が異なる見開きは、91ウ92オ95ウ96オ。左右で文様がズレているのはそれなりに数があるのでいちいち指摘しません。下帖第5括の43ウ44オ47ウ48オが変になっています。この括の第2紙の左右が入れ替わっているんですよね。これ何でしょうか。雲母摺りは主に白雲母で、一部例外的に黄雲母。列挙すると上5括2紙、11括3,4紙、17括2,3,4,5紙、下3括3紙、6括3,4,5紙、10括3紙。結果として、雲母摺りは見開き両面とも白雲母が最も多く、白黄が12箇所、黄のみが6箇所となります。白雲母と黄雲母を用いた紙両方を見ることができる数少ない見開きのうち、状態もよく文様もかっこいいところを見せていたということでしょう。

f:id:ouix:20171015031821j:plain